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DX化は「やりがい」を蝕むか?

 ペーパーレス、非対面化、自動化など社内外で生産性を向上させるべくDX化を進めようと思う企業はたくさんある。中小企業でも、従業員向けの給与計算、明細発行、支払も全てオンライン、ペーパーレス、ネット振込で完結するケースは少なくないはず。当社もご多分に漏れず、従業員の給与についてはかなりDX化を進めている。給与計算が完了すれば、従業員はオンラインで給与明細を発行でき、給料日には自動的にネットバンク経由で振り込まれる。


 実にスムーズである。経営者と従業員の間には一言の会話もなく、給与が口座に振り込まれる。中小企業の経営者にとって毎月の人件費の支払は大きなキャッシュアウトイベントである。毎月定例的に行われる中では最大の金額が動くと言ってもいい。それでも経営者から労いの言葉を従業員にかける機会もなく、何の会話も発生しないまま給与が支払われるのは、正直少し寂しい。もっとも、従業員だって、仕事の報酬として受け取るわけなので、感謝せよとは思わないが、感謝の言葉を伝える機会すらない。淡々と機械が給与を振り込み、それを受け取るのみの作業である。


 現金で給与を渡している時代は、膨らんだ封筒を従業員が受け取る際に、「お疲れ様」「ありがとう」の会話があったのだろうと想像する。現金でなくても、給与明細が紙であれば、受け渡しの儀式はあったであろうし、会話もあっただろう。そんな時代はもうない。効率化ということで労いや感謝を示す機会は奪われてしまったようだ。能動的にチャットやメールで個別に労いや感謝の言葉を交わすかとも思うが、それほどの事でもないと思ってしまう。ちょっとした満足感(この場合は経営者の満足感)は仕事の忙しさで追いやられてしまう。


 ふと考えたことがある。ネット販売が普及し自宅でなんでも受け取れる今、宅配ロッカーは必要不可欠な設備だ。毎日いろんなものを運んできてくれる宅配業者からすれば、宅配ロッカーがなく、不在配達を毎回ポストに入れなければならない先はさぞ面倒だろうと考えていた。でも、本当にそうなのか。実は、宅配業者も宅配ロッカーに淡々と注文品を入れるだけの作業は寂しいと思っているのではないだろうか。ピンポンと鳴らし「はい」と人の声を聞き、玄関先で満面の笑みで「ありがとう」と待ち望んでいた商品を受け取る機会はちょっとした満足感ややりがいを満たしているのではないだろうかと。


 DX化はこんなちょっとした満足感を満たす機会を大きく奪っているのかもしれない。紙であれば、対面であれば、手動であればこそのちょっとした会話が、効率化のもとなくなっていくのである。もっとも、小さな小さな満足感でしかないわけで、今更、紙や対面や手動にしたいわけではない。でも知らず知らずの内に今まで感じていたちょっとした満足感ややりがいみたいなものがなくなっていくことは、やはり寂しく思ってしまうのである。

 

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